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東方への旅 >> ザクセンハウゼン強制収容所(2)


■解剖室

木造バラックのそばにぽつんと建っている小さな建物があった。緑がかった電灯がぼんやりと灯っている。入ってみると解剖室だった。白いタイルとキャビネットが寒々しい。

奥の部屋に足を踏み入れた瞬間、わっと拍手が起こったのでびっくりして立ち止まった。学生らしい若者のグループがガイドを囲んでさかんに手を叩いている。どうやらちょうど解説が終わった所らしい。
学生たちはにぎやかにおしゃべりしながら部屋を出て、地下へ続く階段を降りて行った。私も彼らに続く。
地下にはがらんとした白い部屋が二部屋ほど続いていた。倉庫のような感じである。資材置き場かなと思った。
わいわいがやがやと学生たちが出て行ってしまうと、急に静かになった。

突然、背筋がぞくぞくと寒くなるような恐怖を覚えた。
これ以上ここに一人でいたくない。急いで出口に向かった。
地面に向かって伸びる階段は、台車か何かを通すためなのだろう、中央がスロープになっていた。それを見て、この地下室がどのような目的を持って作られたものか、なんとなく見当がついた。


地上に出て解説書を読むと、案の定、先ほどの部屋は死体置き場であったと書かれていた。

帰国してからも、この時のことを幾度となく思い出した。
私はもともと霊感も第六巻もないにひとしい。強制収容所という場所がしばしばオカルトと絡めて語られるのを不快にさえ感じているし、あれが霊的な何かだったとは今でも信じていない。しかし、それならあの感覚はいったいなんだったのだろうか。すべての旅程を通して、私に本能的な恐怖を感じさせたのはザクセンハウゼンのあの部屋だけだった。

■監獄


政治犯を収容した監獄の一部が残されている。独房である。鉄格子のはまった窓と、粗末なベッド。床の上にじかにわら布団が置かれている部屋や、窓のない部屋もあった。

庭にあるのは収容者を後ろ手に吊るすための柱。周辺には建物の基礎部分が残っており、かつてたくさんの建物が並んでいたことを偲ばせる。

■木造バラック

ユダヤ人用のバラック。内部にはトイレや洗い場のほか、ベッドなどの復元展示もある。先ほどの牢獄よりもさらに非人間的な印象。




ザクセンハウゼンは今まで見てきた収容所と比べても規模が大きく(単に敷地が広いという意味ではなく)労働スペース、クレマトリウム、監獄、解剖室と、ナチスの収容所を構成する要素の多くが揃っている。おそらくこれをより発展させたものがこれから行くアウシュヴィッツなのだろう。
この充実振りとベルリンからのアクセスのよさが好まれるのか、見学者も多い。これまで訪ねた強制収容所がどこも閑散としていたのとは対象的だ。見学者は各国から訪れるようで、英語、フランス語、スペイン語とさまざまな言語が耳に入ってくる。


資料館のカフェで休もうと思っていたが、改装中らしく、閉まっていたのでしかたなく駅に向かった。明るい間に活動しようとするとついつい食事を取る時間を惜しんでしまい、お昼抜きになってしまう。

最後に振り返ると、夕闇の中、収容所の門がマグリットの絵の中の風景のように奇妙に幻想的に見えた。


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