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神の島

ところが当地では、いっさいが神秘だ。
サファイアも神秘なら、聖母も神秘、
サイフォンも神秘なら、水兵の襟も神秘、
 ジャン・コクトー「呉須の神秘」(『詩集』より 堀口大學/訳)


長崎駅前でバスを降り、「神の島」行きのバスに乗り換える。
今回、時間の関係から島嶼部への旅行は諦めざるをえなかったのだが、どうせ長崎に行くなら「島っぽい」所を見てみたい。どこか適当な場所はないかと思っていたとき、小崎登明著『長崎オラショの旅』で神の島のことを知った。
現在は埋め立てられて陸続きになっているがもともとは島だったところ。明治時代に建てられた白亜の教会堂があり、沖にはキリシタン時代の殉教地として名高い高鉾島も望める。長崎市内からはバスで40分ほどの距離だ。ここに行ってみよう!

最初は10人ほどいたバスの乗客も、一人降り二人降りで終点の神の島教会下についた時には私一人になっていた。
バスを降りて右手を振り仰ぐと、小さなドームを持つ瀟洒な教会が見えた。


■神の島教会

階段の下でねこが迎えてくれた。しゃがんで撫でると、喉を鳴らしてすりよってくる。ひとなつっこい。
階段を上り始めると、まとわりつくように後を追ってきた。


教会の裏手にある階段をさらに上がり、ルルドを模した岩窟のマリア像の横に立つと、ちょうど正面に高鉾島が見える。
1617年10月、ガスパル彦次郎とアンドレア吉田という二人のキリシタンが神父を匿った罪で捕えられる。二人は斬首され、その遺体は高鉾島の右手の断崖から投げ落とされた。オランダ人たちは高鉾島を「パーペンベルグ(キリシタンの島)」と呼んだ。
私が高鉾島を眺めている間、ねこは踊り場で寝転んだり毛をつくろったりしていた。

階段を降りて、教会堂へ向かう。ねこも後からついてきた。
教会堂の扉を開けると、中で二人の信者さんが祈っている最中だった。ねこが入って来ようとするのをなんとか阻止して鼻先で扉を閉める。しばらくの間、鳴き声が聞こえていた。
信者さんの邪魔にならないようにそっと見学をする。
大浦天主堂と同じようなリブ・ヴォールトの天井に素朴なステンドグラス。明治30年当時17戸あったキリスト教徒の家庭の、子供から老人までが総出で煉瓦を運び、ひとつひとつ積み上げて建てた教会である。
神の島はもともと潜伏キリシタンの多い土地だったという。大浦天主堂での信徒発見のあと、神の島で水方(キリシタンの秘密組織で洗礼を授ける役)を務めていた西政吉は、船でひそかに対岸の大浦に渡り、プティジャン神父に信仰を告白した。政吉は兄の忠吉と力をあわせてプティジャン神父の布教活動を助けるが、1871年に役人に見つかって捕縛、投獄された。
禁教令が撤廃されるのはその二年後のことだ。


教会の庭、高鉾島を望む位置に西兄弟の遺骨を納めた納骨堂がある。彼らとあわせ、江戸時代の殉教者ガスパル彦次郎とアンドレア吉田を顕彰する碑も隣に立っている。

神の島教会は、往年の美男俳優、上原謙が二度目の夫人と結婚式をあげたことでも知られているそうだ。町の人たちに祝福され、つつましくも感動的な式だったというが、後に夫妻は離婚。元夫人は暴露本を出した。……人間って…。

階段を降りていると、頭上から「にゃ」と声がした。見ればさっきのねこが見下ろしている。「ばいばい」と手を振ると、

身軽に駆け降りてきて

甘える。

困った。可愛くて帰れないじゃないか。
心を鬼にして立ち上がり歩き出すと、また前になり後になり後を追ってくる。
だが階段下の駐車場まで来るとねこはぴたりと立ち止まり、それ以上ついてこようとしなかった。

■岬の聖母



釣り人たちに挨拶しながら防波堤の上を歩いて、海に突き出た岩、通称ドンク岩へ。ドンクとは蛙のことだというが、鳥居をくぐってこの岩に上がると、「岬の聖母」像が立っている。フランシスコ・ザビエル渡来400年を記念し、1949年に建てられた。
マリア像へ続く道なのになぜ鳥居があるのか? それは岩の上に恵比寿様も一緒に祀られているから。
長崎はまるで日本のアンダルシアだ。長い対立の歴史を経て、複数の宗教が違和感なく共存している。


鳥避けなのだろう、頭の上にトゲトゲを乗せたマリア様。
最初の像は潮風に晒されて老朽化したため、現在立っているのは二代目である。


「聖フランシスコ・ザベリオ渡来四百年記念」
のプレート


恵比寿様

ドンク岩のまわりはちょっとした砂浜になっていて、細かな貝殻や波に現れてまるくなったガラスがたくさん落ちていた。
…ウニないかな。
私は海胆殻が好きだ。
残念ながら海胆は見つからなかったが、貝殻をいくつか拾った。儚げな薄い貝殻が、この海に流されたキリシタンたちの遺骨のように思えた。



■十字架を買いに

バスに乗って長崎駅前へ。時計を見ると、16時45分頃。思い立って二十六聖人記念館へ向かった。一日目に迷った末買うのをやめた188殉教者列福記念十字架を手に入れるためである。二日間考えて、やっぱり欲しいと思ったのだ。
二十六聖人記念館は17時に閉館。ギリギリで間に合った。


無事に手に入れました。

西坂のまん前のマンションには「入居者募集」の看板が出ていた。ここに住めたら幸せだろうなあ。家賃は書いていなかったが、今私が住んでいる家よりは安いに違いない(東京の住宅費の高さは異常)。

駅ビルで角煮まんとお惣菜とビールを買って帰って夕飯にした。



長崎駅のクリスマスツリー




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